北海道大学URA ~大学戦国時代を生き抜く 経営人材としてのURA

 

北海道大学は、文部科学省の「研究大学強化促進事業」の採択を受けた。この事業は大学による研究力強化の取組を10年支援するものであり、現在ほとんどの日本の大学に欠けている視点である、大学経営マネジメント人材の確保・構築という目的も含まれている。北海道大学は、経営マネジメント人材としてのURA職を強化し、根本的な組織革新を行っている。

今回は、北海道大学URA事業のキーマンである 川端和重副学長・理事、北大URA主任メンバー、そして北大URAの現場に立つ人々から話を伺った。チーム設立の経緯や、大学経営における新しいロールモデルを生み出すことの難しさと闘いながら、組織改革を行う北大URAを特集する。

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北大主任URAが語る、これが北大URAの「肝」だ!

URAは理事補佐!大学経営マネジメントの実働部隊。一人一人が自分の思い描くURA像を追求でき、その想いが大学を新たな道へ導く! 江端新吾(えばた・しんご)氏  僕の専門は宇宙化学で、隕石の分析や小惑星探査機はやぶさが持ち帰ってきたサンプルを分析するための装置開発などを通じて太陽系の起源を探る研究をやっていました。研究を進める中で分析機器が研究に与える影響の大きさを強く意識しました。研究者と研究機器・基盤は研究を推進するためになくてはならない両輪なんだと。それからポスドク・助教時代を通して世界最先端の分析機器の開発に携わる中で、有効活用されていない分析機器が大学で大量に抱えられている問題に気づき、これって大学自体の経営戦略がまずいんじゃないかとマネジメントに関心が湧いたんです。何よりも北海道大学のために、北海道のために、日本のために貢献できる仕事がやりたかった。その時たまたま北大URAの公募が出て、これ面白そうだなと。それがURAの仕事に飛び込んだきっかけです。 URAとして力を入れているのは、機器共有システムの事業化、技術職員技能共有の事業化、それから設備整備の間接経費マネジメントなどです。ざっくり言うと大学ブランド・資産活用。今、国からの予算がどんどん削られている状況で、新しいことをやって大学の存在価値を高め、社会的価値を予算という形に変えてサステイナブルにしっかりと回していくという新たなビジネスモデルが必要です。 それを実現する北海道大学の次世代経営戦略として「グローバルファシリティセンター*」構想を企画し2016年にセンターを設立しました。設立前は、大学が抱える機器と技術職員の方々の価値を大学の資産として重要視している人が当時はほとんどいませんでしたが、これを大学の次世代戦略として位置づけ、北大の1つのランドマークするために、全国に先駆けていろんな取り組みをやってきました。それが功を奏し全国的に評価されるだけでなく、多くの予算を獲得することができました。その余談で「設備市場」や「試作ソリューション」などといった新規事業を始めることができるようになりワクワクしています。予算を獲得することで終わりではなく、副センター長としてマネジメントも行うことにより北海道大学の価値を上げ、当初のビジョンを実現し成果を上げるべく日々奔走しています。 北大URAの特徴は、全学レベルのシステム改革をミッションにしていることです。一方で、川端理事・副学長は個々のURAが思うURA像を追い求めていけと言っている。URAは新しい職なので、どう発展していくかは未知数です。それぞれのURAが自分が思い描く理想のURA像を自分の仕事を通じて追い求めながらも、一人一人の仕事の成果を最終的に全学レベルのシステム改革に結び付けていく。北大にはその体制がとれているからこそ機能しているのだと思います。北大URAは端的に言うと理事補佐です。URA育成方法はOJTなのでいつも嵐の中につきおとされるのですが、個々が綿密に企画した構想が大学の経営戦略に結びつくその過程を目の前で見ることができるので、毎日がエキサイティングですね!   江端新吾(えばた・しんご)氏 シニアURA/主任URA 北海道大学にて博士 (理学)を取得。専門は宇宙化学・分析化学。大阪大学、北海道大学にて分析機器の開発に携わる。2013年URA着任。2014年第4回URAシンポジウム・第6回RA研究会合同大会事務局長。2015年より文部科学省科学技術・学術審議会専門委員。2016年グローバルファシリティセンター副センター長。研究基盤戦略や人材育成事業を主に担当。 主な任務 大学機能の自律化システム・ビジネスモデル構築担当するプロジェクト ● オープンファシリティ・システムの事業化...

これぞニッポンの国立大学法人だ! と言える新しい大学経営モデルを作りたい

2012年に文科省が実施し、各大学に設置を要請した高度な研究マネジメント専門人材であるURA(ユニバーシティリサーチ・アドミニストレータ)。しかし大学によってURAの仕事の解釈や位置づけは様々。そんな中、「URAは大学経営人材だ!」と明確な方針を打ち出し次々と尖った組織改革を行う北海道大学URA事業のキーマン、 川端和重副学長・理事に北大URAのヴィジョンを伺った。 インタビュー 北海道大学 副学長・理事 川端和重(かわばた・かずしげ)氏 聞き手 湯浅 誠 ー研究担当理事が川端理事に変わられてから、北大URAはかなりドラスティックに変わったとお聞きしています。ヴィジョンを教えてください。 2004年に国立大学法人化が起きましたよね。それから日本中で、「大学経営」というキーワードが盛んに使われるようになった。では大学経営は企業法人と同じ経営じゃ意味がない。じゃあ国立大学法人だからできること、大学経営だからこそやらなきゃならないことって、いったい何だろうと。 この答えは国にではなく、社会に対して問う必要がありました。 僕が北大URAでやろうとしていることは、それを問うためのシステムを作ること。北海道大学の個性を打ち出して、日本の国立大学法人の経営とはこういうものだ!という一つのモデルを作りたいという思いがあります。その思いはまだ、空回りしていますけれど(笑)。   ー企業経営にはない、大学経営の意義ってどんなところにあるのでしょうか? 今までの国立大学って、個性的な研究者を集めてホチキスでガチャっと止めたら成立していたんです。でも法人化してからは、社会や企業、地方自治体と協働する機能が重要になった。例えばスマートフォンを作って社会に流布し、経済効果をあげることが企業の役割だとしたら、そのもっと先、スマホが普及した社会や産業構造はどう変わるかを予測するところまでカバーするのが大学の役割です。今、北大でやっているプロジェクトに「北極域研究」がある。この研究では温暖化の影響で北極の氷が解けてできるヨーロッパと日本を結ぶ北極海航路を実現する試みをしています。北極海航路ができるとヨーロッパから日本への物流拠点が神戸や東京ではなく苫小牧になり、日本の物流が変わります。そこから様々な社会や産業の変化が起きる。僕らは温暖化の予測や実証データ、ロシアや中国が絡む政治的な問題を含む国家リスクなど、北大を拠点にして情報を集め、企業も巻き込んで様々な研究・実装を行い、社会を変えたい。これは大学だからこそできる「社会実装」です。     ー研究担当理事としての川端理事のお仕事はなんですか? 営業ですよ。実現のために資金調達をする。国だけじゃなくて、民間、地方自治体、市民に向けてこんなことをやりますから、どうぞ投資してください、出資してくださいと歩いて回っています。「一緒に社会を変えましょう」と話をしに行くんです。多くの企業のトップは面白がって下さるし、僕らも企業の経営者から学ぶことが沢山ある。その対話の中で我々大学自身の「個性」を模索しています。北大URAが企画し立ち上げた「グローバルファシリティセンター」の取り組みは、北大の特徴を活かした「個性」としてこれまでにない産学協働事業を始めた事例の一つになりました。...

大学新時代を開拓する戦士たちが大集合!北大URA座談会

北海道大学URAステーションメンバーが大集結!大学が大きく変革を遂げる時代の最前線に立つURAの現場のホンネを語っていただきました。 現場の人々が語る、北大URAのこれまでと、これから。 ーみなさんにとってURAの定義ってなんですか? 上原 URAになってまだ6ヶ月ですが、想像していた仕事と違いましたね。北大のURAって個人のサポートというより、プロジェクトマネジメントに近いですよね? 古畑 そう。私も入ってまだ6ヶ月ですが、自分の仕事を定義すると、大学を主観的にも客観的にもよく見て、この大学がどうしたらもっとよくなるかを考えて、理想を実現するために動く仕事だと思う。部局にいて課題を抱えている人がみんな解決に動けるわけじゃないから、私たちURAは執行部の下にいて、考えて動くことが期待されている「実行部隊」、そういうイメージです。 和田 私はURAって「のりしろ(糊代)」だと思う。教員と事務はそれぞれに持ち場と役割が決まっているけれど、新しいことをするときには人や組織をつなげたりする糊代が必要です。いろんなことができる立場ですよね。 小俣 僕はURAって「攻殻機動隊」ってアニメの「公安9課」だと思っていて。一人一人のURAの仕事は違っても、大きくとらえたときに、その大学のミッション、あるいは地域や国のミッションにつながっている。自分はそういう機動的な分子なのかなと思っています。 田中 研究者の仕事は個人の自発性に基づいて研究活動を行うことで、 それが一番イノベーションをもたらすんですね。その活動を支えるためには、大学全体のことを考えて、予算をとってきて環境を整備することが必要です。URAのミッションは、 北大ブランドを確立して、先生方がうまく活動できるような環境を作ることだと思います。   ーURAのお仕事のここが面白い! 上原 URAになると研究者をやっていたときにはいままで知らなかったことや新しい経験ができて面白い。大学経営でどんな風に意思決定がされているのかとか、事務のお仕事とか。 古畑 ありとあらゆる部局の人と関わっていけるのがとても面白いな。これは北大URAの特徴だと思いますが、理事の直下にある組織なので、大学全体を俯瞰できて、大きな仕事を任せてもらえる。 私たちのように元研究者だった人間って、普通の階級的な組織には向いてない人の集まりだったりします。だからそういう個性を生かせる環境がすごく大事なんだと思うんですよね。...

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