韓国大学のロバストな革新

アジアの大学の多くは、グローバルに認知されることの大切さを認識しつつある。大学の強みを測る方法はいくつかあるが、中でも『タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)』による世界大学ランキングが、世界中の大学にとってはおそらく最も有名な指標ではないだろうか。

THEの2019年度アジア大学ランキングでは、予想通り多くの中国の大学がランクを上げてきた。そんな中、大きなリードを見せた韓国の大学もある。事実、アジア大学ランキングの上位30 位以内に入った韓国の大学の数は日本の大学を上回る。

我々は、近年アジアの立ち位置を著しく押し上げた大学が取り入れた戦略を学ぶために調査を実施し、アジアのランキング内で大きな飛躍を見せた大学をピックアップした。その中の一つである延世大学を今回は特集する。延世大学は韓国の名高い私立大学の一つで、急激なランキングダウンから返り咲いた学校でもある。調査を通じて、大学が自らの弱点を分析し、システマティックに対策を実行してきたことがわかった。

延世大学のケーススタディは自学の改革と大学ランキング向上を目指す大学に、何らかの知見をもたらすはずである。

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大学の改革を進める:韓国の大学から学んだこと

コラム まことのFACT 大学を体系だった国際的な組織にするのは一朝一夕ではできることではありません。延世大学とSKKU大学へTHEランキング向上に関する戦略についてのインタビューを行い、彼らがいかに目標を定めコミットしていたかに感銘を受けました。 大学は事務的でお役所仕事になりがちです。学部のメンバーは自分たちの研究テーマ、知見、モチベーションを持っておりそれは非常に多様であるため、ステークホルダーを運営するのも大仕事です。会社を運営している自分の経験から言うと、会社の従業員は共通の目標に向かって仕事をしているので、会社の指針を変えることは大学ほど難しいことではないと思います。 THEのランキングが向上したからといって大学が変わったことを必ずしも意味するわけでありません。実際、我々は多くの大学にインタビューしましたが、単にランキングを上げることを目標にしていたというところは一つもありませんでした。彼らは、大学をより良い場所にし続けるという、より大きくて長期的な目標を持っていたのです。しかし、THEは価値観の変遷に合わせてランキングメソッドを何年もかけて変え続けているので、ランキングを頭の片隅にとどめておくことは、社会が大学に何を求めているかを理解し運営方針を対応させていくのに役立ちます。 クリアで長期的な大学のビジョンを持つことと、THEのような第三者によるランキングのための実践的で実現可能なプランとリソースとのバランスを保つのが鍵となります。ほとんどの大学は、ビジョンをただの宣言のように捉えており、それをランキング目標を達成するための実現可能で測定しやすいプランに落とし込むことを苦手としている大学も多いのです。 延世大学のメンバーは、2015年のランキングは自校の強みを表したものではないと語りました。しかしそれをチャンスと捉え、問題に取り組んだのです。運営トップによる明確さと実行スピードには目を見張るものがありました。職員の強固なマネジメントのもとで、戦略室は自分たちの役割とゴールを明確に理解し、KPIを達成することに集中したのです。 先にも述べたように、THEランキングは大学の強みを図る一つの指標でしかありません。大学はどの側面に焦点を当てるかを選ぶことができます。ランキングを変えるためにどのくらい真剣に取り組むかは大学次第であり、延世大学のケースは、大学を国際的な機関に変革するための取っ掛かりとして、いかにランキングを有効活用することができるかを非常によく示してくれているでしょう。   湯浅誠(ゆあさ・まこと) / カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役 イギリス留学、インド滞在、会社経営を経てカクタスの代表取締役に就任。プライベートでは双子のパパで、最近子どもの入院をきっかけに社長自ら育休の取得に挑戦。社員のマネジメントでもワークライフバランスが目下の関心事項。    

THEのランキングメソドロジー:「世界大学評判調査」の重要性

世界ランキングを上げるためには、ランキングシステムを理解する必要がある。そこで本項ではどのようにTHEのランキングシステムが機能しているかを説明する。大学ランキングを上げるのは長い道のりであり、取り掛かる前にいくつかの課題をこなすことが望ましい。THEのランキングシステムを理解すれば、あなたの大学の世界における競争力をより高めてくれるような短期的・長期的なアイデアが浮かんでくるかもしれない。 THEスコアの要素を理解する THEの大学ランキングは、教育、研究、被引用論文、産業収入、国際の5つの指標によって決定される。最初の3つの要素は30%ずつで評価の90%を占める。それぞれの要素は複数の指標に基づいており、エルゼビア・スコーパス(世界最大級の抄録・引用文献データベース)を根拠にするものもある。   教育(30%):毎年THEによって行われるアンケートに基づいた「大学評判調査」のスコアは、教育スコアのうち50%を占める。在学生と収入に基づいたデータは大学側から提供される。 研究(30%):「大学評判調査」と大学独自のデータ、そしてスコーパスのデータを組み合わせたものである。研究による収入は、大学研究員の収入に基づいて申告される。研究の生産性は、大学によるデータとスコーパスのデータを統合したものである。 被引用論文(30%):被引用論文スコアはスコーパスにおける過去5年の論文被引用実績に基づいている。このスコアを向上するには学部のメンバーによるサポートが必要だが、運営側がスコアに影響を与えるような論文の発表策を取ることも可能だ。 国際的(7.5%):上記の3つに比べこのスコアのウエイトは軽いが、大学の国際性は、運営側が様々な国際的なイニシアチブを通して調整するのが簡単かもしれない。在学生のデータは大学側から提供される。 産業収入(2.5%):大学によって提供されたデータのみを使用して付けられるため、産業収入や大学職員をどのように定義づけるかがスコアに影響を与える。 我々がインタビューを行った大学は、THEに提出するデータの基本的な間違いを訂正したことでランキングが大きく向上したと語っていた。収入や学生数に関するデータは、どのように学生やスタッフ、そして留学生を定義づけて集計するのか、産業収入はどの範囲までを含めるのかといった点は大学によって異なり、そうした差異がランキングに影響を及ぼす。 いくつかの戦略は短期的なものであるが、ほとんどの指標には違いを産むための長期的な戦略と投資、そして努力が必要である。とりわけ研究に関する指標は学部のメンバーからの協力が必要であり、また大学の運営側が影響を与える部分も多い。 「大学評判調査」は研究と教育分野における大学の名声を図るものである。このスコアがトータルスコアのうち33%を占めている(ランキングメソドロジーにおいて最も大きな割合だ)。THEはあらゆる学問分野と所属の研究者を、ランダムに回答者として選出する。その数は20000人を超える。回答者は下記のような2つの基本的な質問への回答を求められる。   大学評判調査質問 世界中で、XXXの分野で最も優秀な研究を行なっている機関を15個まで選んでください。...

自らの大学を知れ、そして改革への戦略を立てよ

延世大学は、THEランキングが実施したランキングメソドロジーの変更によって2016年に大幅な大学ランキングダウンを経験するが、劇的な改革によってランキング上昇を達成し、他のアジア圏の大学の追随を許さない。延世大学開発戦略室副室長キム・ドンノ教授へのインタビューによって、このランキング向上が偶然ではなく、戦略と素早い実行に基づいた改革であるということがわかった。延世大学は、グローバル時代に躍進するために大学の世界大学ランキングを上昇させる術を示してくれる素晴らしい事例である。

大学戦略としての デジタルマーケティング

延世大学大学院開発部副学長 ドンノキムへのインタビュー ―多くのアジア圏の大学は研究プロモーションとマーケティングの大切さに気づいていないと思います。どのようにしてその重要性に気付いたのですか? 基本的には、研究プロモーションでベストな方法は質の高い論文を書いて広く読まれているトップジャーナルに掲載することです。例えば、『Nature』、『Science』、『Cell』などに研究が掲載されれば誰もがそれを読み、延世大学の教授が書いたものであると知られるでしょう。そのため、我々は長期的戦略としては研究の質を高める努力を行っています。同時に、現代の国際競争を生き残るには、長期的なゴールを達成するのを待っているだけではいけません。ギャップを埋めるために短期的な戦略も必要です。デジタルマーケティングは私が利用した中でもベストな短期的戦略でした。ご存知の通り、有名なジャーナルに掲載された論文だけが影響力のある研究ではありません。重要な研究結果なのに認知されていないものもたくさんあります。良い成果物があるのにマーケティングをしなければ、誰もその知識が存在することを知らないのです。これによって実際の研究パフォーマンスと大学の評判のギャップが生じます。私はこのギャップを埋めたいのです。   ―多くの大学がソーシャルメディアをマーケティングに使用していますが、延世大学はとても真剣にソーシャルメディアで研究のプロモーションに取り組んでいますね。 多くの研究者たちはいまだにソーシャルメディアに注目していません。楽しむためのものだと思っているのです。全てのマーケティングメソッドを試したら、ソーシャルメディアが研究プロモーションに不可欠なメソッドだと気付きました。あらゆる使用可能なチャネルを全て使用し、デジタルマーケティング分析を使ってパフォーマンスを計測しました。ソーシャルメディアは研究プロモーションにとって有力なツールなのです。   —研究コンテンツのデジタルマーケティングキャンペーンを成功させる鍵とは一体なんだと思いますか? コンテンツの質と視覚化です。我々は研究をプロモートするときにはコンテンツ作成から取り掛かります。コンテンツスペシャリストが学部の研究員からコンテンツを集め、デザインスタッフがそれをキャッチーなインフォグラフィックにするのです。ビジュアルのインパクトはウェブサイト上のリサーチニュースにトラフィックを集めるのに非常に重要です。我々は、ある分野に特化した質の高い情報がたくさん見られるリサーチハブとなるウェブサイトへターゲットをシステマチックに誘導するプロモーションチャネルをいくつか用意しています。   ―延世大学にはとても力のあるデジタルマーケティングチームがありますね。どのようにスタートしたのですか? 大学所属のデジタルマーケティングチームを、大学開発戦略室の内部に作りました。延世大学にはマーケティング部門がなく、リサーチプロモーションをするのは初めてでした。ゼロから始める必要があり、国際的な水準に追いつくために努力しなければなりませんでした。チームはウェブサイトを改善し続け、人気のあるプラットフォーム全てでアクティブに活動しています。私自身も毎週キャンペーンのパフォーマンスをチェックし、戦略を一緒に練っています。     —多くの大学が、発信すべきリサーチニュースを集め、選出するのに苦労しているようです。延世大学ではどのように学部のメンバーから最新の研究を集めて、配信する優先順位を決めているのですか?...

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