名古屋大学子育て単身赴任教員ネットワーク が提案する、やさしい解決策

「トゥ・ボディ・プロブレム」をご存知だろうか。配偶者がすでに別の地域に常勤ポストを得ている場合、パートナーや家族と離れて長期にわたり単身赴任をしなければならなくなる問題である。就職ポストが極めて限られている研究者は、大学で常勤職を得る際に、地域を問わず就職活動をしなければならない。

特に女性研究者は出産・子育てといったライフイベントとテニュアトラックが重なるため、単身赴任で乳幼児の子育てをしながら教育授業と研究活動と両立しなければならないケースが実は少なくない。

実際、全国で最も大学教員数が多い東京大学で2010年に公開された女性研究者アンケートによると、配偶者のいる研究者のうち半数以上は研究者同士のカップルで、夫婦別居率は22%、ほぼ5人に1人と非常に高い。そして、子どもがいる女性研究者のうち育休を取得しなかった人の割合は70%、半年以内に復帰している人が18%とあり、いかに女性の大学教員にとって仕事と育児の両立が過酷であるかを物語っている。研究者の単身赴任子育ての問題は日本だけでなく世界的な問題であるが、この問題に対応するため、名古屋大学の女性教員たちが面白い試みを行なっている。大学に単身赴任してくる子育て中の女性教員のためのセルフヘルプ・ネットワーク、「名古屋大学子育て単身赴任教員ネットワーク」を立ち上げたのだ。このネットワーク、男女共同参画室と連携はしているものの、現場のママ研究者たちが自分達で立ち上げ、徐々にネットワークの輪を広げているところが面白い。設立に関わった理学研究科教授の上川内あづさ先生、未来材料・システム研究所准教授の田川美穂先生にお話を伺った。

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子育て中の女性研究者に聞く!単身赴任子育ての傾向と対策

単身赴任中の女性研究者の間に口コミで広がる、名古屋大学子育て単身赴任教員ネットワーク。 今回その中から6名の女性教員のみなさんのランチ会に潜入し、子育て単身赴任をしている事情や、ネットワークの活動、私生活や研究・教育活動、女性研究者のキャリアについてのホンネを伺った。間違いなく、名古屋大学には未来の日本の研究を元気にするためのヒントがある。

名古屋大学女性研究者の ミューズ

全てはこの人から始まった。 大学初学内保育園設立を皮切りに、名古屋大学の男女共同参画事業を大学の経営戦略にまで押し上げた、束村博子先生。 「束村先生がいてくれたから、今の名古屋大学がある」、女性研究者がそう口々に語る名大のミューズが、キャリアで苦境に立った時も負けずにポジティブに生きるヒントを教えてくれた。

キーマンに聞く!女性研究者子育て支援の本質

取材を始めてすぐに気づいたこと。「名古屋大学の子育て教員支援を盛り上げている現場のキーマンは、この人だ」。 本業は生物学研究者である佐々木成江さんは、お茶の水女子大学での教員経験と名古屋大学での男女共同参画室での経験を生かし、当事者として、アドバイザーとして、女性研究者を増やすための試みを現場で支え、動かしている。くるくる動く表情と、パワフルな笑顔に目が離せない。

研究者単身赴任子育てのリアル

アメリカの研究所に夫を残し、保育園児の娘とお腹に赤ちゃんを抱えて名古屋大学に単身赴任してきたという田川美穂先生は、ワンオペ育児中に第二子を出産し、まだ保育園に入れぬ新生児を抱えながら早期復帰した壮絶な経験の持ち主。子育てと仕事で眠れぬ日々の中、それでも研究者としてのキャリアを貫く姿には、この国の女性研究者が背負う未来の社会への責任が見える。

子育て単身赴任教員ネットワークは どのようにして生まれたのか?

名古屋大学の女性PI公募の第1号として、若干36 歳で教授として名古屋大学に2011年に赴任してき た上川内あづさ先生。AERAで2012年「日本を立て 直す100人」の科学部門で選ばれ、女性リーダーとし て日本のサイエンスを牽引する上川内先生だが、実は1歳になる前の子供を連れての単身赴任だった。大学のサポートシステムからこぼれ落ちる「子育て単身赴任教員」という問題。支援がないのならば、同じ立場の教員同士で支えあえばいいのではー。それがネットワーク立ち上げの動機になった。

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