国立大学の自律的経営に向け、「できることはすべてやる」覚悟の舵切り〜徳島大学の産学連携事業グループインタビュー(後編)
Text by blank:a Editorial Department

2004年度に実施された国立大学法人化から16年。各大学の自律的経営が期待される中、第3期中期目標期間(2016年度2021年度)では、国立大学の機能分化を進め、大学の特色や強みを最大限に活かした大学改革を進める目的で、国立大学を3類型に分けて重点的に運営費交付金を配分する新しい枠組みを開始した。「地域貢献型」、「教育研究型」、「卓越した教育研究型」の3類型の中で、多くの地方国立大学と同様に「地域貢献型」を選んだ徳島大学。だが、この大学の経営者と管理部は一味違った。「公金に頼らない自律的大学経営」、という政府からの大きな宿題に、真っ向から答えを出そうとしているのだ。

野地澄晴学長の強力なリーダーシップの下、徳島大学はこの数年、近隣地域企業との産学連携を経営の柱に置いたユニークな改革屋として、経営難に悩む多くの地方国立大学の中で独自の地位を確立しつつある。「大学が生き残るために、できることはすべてやる」——その姿勢は、前例のない事業を日々壁にぶつかりながらも実装する管理部の人々の心にも深く浸透している。それがインタビューを通じてわかったことだ。

大学初の研究クラウドファンド・クラウドソーシングプラットフォームである「OTSUCLE」、大学初の産学連携情報誌『企業と大学』、そして病院と並ぶ大学の第2の収益源を目指す「産業院」。大学初、が尽きない徳島大学のいまを理解する上で欠かせない3つの事業と地域連携戦略について、現場の方々の声を伺った。2回に分けて掲載する。

 

インタビューにご回答いただいた方々

  • 元副学長(現在、文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課長)斉藤卓也(Takuya Saito)
  • 理事(広報担当)・産業院出版部 月刊[企業と大学]編集長 坂田千代子(Chiyoko Sakata)
  • 産業院 院長  森松文毅(Fumiki Morimatsu)
  • 研究・社会連携部 産学連携・研究推進課 副課長 武市学(Manabu Takeichi)
  • 研究・社会連携部 産学連携・研究推進課  主任 池田晃一(Koichi Ikeda)
  • OTSUCLE コーディネートマネージャー 馬場裕太郎(Yutaro Baba)

 

お写真左より樋口優氏、武市学氏、馬場裕太郎氏、森松文毅氏、斉藤卓也氏、坂田千代子氏

 

インタビュー前編はこちら


 

産学連携に必要なのは「戦略と売り込み」

 

—徳島大学の活動を見ていると、大学が研究者のために研究費を自ら稼ぐための複数のオプションを用意していると理解しました。クラウドファンディングのシステムを作り、産学連携を行う母体としての産業院を作ったり、と仕組みを用意することで、「自分の研究費は自分で稼いでください」というメッセージを伝えているのですね。

 

武市 「まさにそのとおりです。教育と研究は教員の本分ですが、研究のほうは資金を自分で集める必要がある。資金を広く集めるためには、研究の内容が専門家同士で理解できるだけでは成り立ちません。教員は研究のアウトプットを論文だけじゃなく、一般の人々や企業、専門外の人々などに伝わるように、様々な方面で考えていかなければクラウドファンディング等での資金集めは出来ないのです。」

 

—徳島大学では産学連携からの収入が伸びていますね。これは最近の活動よりも過去の蓄積によるものが大きい気がするのですが、もともと大学には産学連携の強い基盤があったんでしょうか?

 

武市 「最近とくに伸びてきたのは特許収入です。関西圏で徳島大学の医薬を中心とするライフサイエンス分野の産学連携活動を行い、関西の製薬企業との連携が大きな特許収入に結びつく成果がありました。具体的には、関西圏で企業向けの展示会に参加してシーズと企業とのマッチングをしたのです。実際に、その企業のところに出向いていって売り込みをし、商談が成立して収入につながった、という事例です。」

 

—その戦略と売り込みは、具体的にどうやるのですか?

 

武市 「産学連携活動では、実際、むやみやたらにマッチングをしても効率が悪いんですよね。知財を発明した教員と産学連携スタッフが事前に話し合って戦略を立て、一緒にターゲットとなる企業に出向いて交渉することで効率よく成立すると思っています。大学が一方的に発表会を実施して研究成果を発表するのではなくて、我々から商談に出向いて企業の意見をしっかり聞いたうえで、じっくり契約まで持っていくのです。実際に先ほどの関西圏でのケースでは、関西圏には製薬会社が多く集積しているため、地域をしぼる等の戦略を立てて活動し、最初の商談から契約まで2年ほどかかりました。産学連携というのは、これぐらいの戦略と慎重さ、忍耐が必要な仕事だと理解したからこそ、同じことができる仕組みを作るために産業院を立ち上げたわけです。」

 

—なるほど。産学連携の成功例を基にして、組織としてちゃんと仕組みを作ろうというのが産業院設立のきっかけだったわけですね。

 

斉藤 「産学連携にもいろいろな方法があるのです。知財の扱いにもいろいろあって、ある知財がどのように社会で応用できるかが必ずしも明確でない場合は、情報をオープンに発表して、一番高い値段をつけてくださった企業と一緒にやるというのもひとつの方法です。一方で、最初から一本釣りして、一番自分たちの知財に近い事業を行なっている企業に目をつけて、密接にお互い寄り添って時間をかけて商品化に向けた事業案を作っていく、という場合もあります。」

武市 「産学連携は単に特許を持っているだけで、企業との契約が成立したら特許収入が入ってくる、というものではないんですね。商品化にこぎつけるまでには、知財を発明した教員にかなり協力していただいて、産学連携スタッフが企業と教員の間に立って様々な交渉をして、時間をかけて作っていかなければ難しいのです。これまでは、企業からすれば大学の教員は好きな研究をして、研究成果を自分は論文に発表して終わり、という姿勢に不満を感じているという話をよく聞きました。先ほど森松先生がおっしゃったように、産学連携本部のように千人の教員に対して数名のコーディネーターが対応している体制では、なかなか事業化までの実現が難しい。支援を厚くするためには、これはという研究を決めたらそれに徹底的に特化して、専任の教員が研究成果を生み出し、同時に産学連携スタッフが横で伴奏支援をしなければならない。だからこそ産業院が必要だったのです。今回産業院を兼務してくださっている先生方とも、同じような成功事例を作りたいと思っています。」

 

—そこまでの手厚さが必要なんですね。そんなに簡単に商品化には至らないと。

 

武市 「そんなに簡単なら、各県の大学は産学連携でこんなに困ってないと思うんです。」

斉藤 「特許があれば、5大学が連携して行なっているTLOが中心になって特許の戦略を立てていくという可能性もあります。ただ、まだノウハウの段階のシーズもありますし、そういうところは産業院のほうで拾って、特定の企業と密接に、丁寧に進めていくほうがいいのです。大学内では、一つ一つの研究テーマに対して、TLOも、産業院も、OTSUCLEも、一緒になって考えながら、一番ベストな方法を探して、選んでいこうという考えなんです。

地方国立大学として、そういった産学連携のベストなエコシステムを作りたいと思いますし、将来徳島大学の教員がベンチャーをどんどん作り、教育研究にその資金の一部を回していくような仕組みができることがベストですね。」

 

斉藤卓也元副学長

大学初の産学連携情報誌、『企業と大』〜広報は大学と企業の交流を円滑にするかすがいとなる

 

クイック解説:『企業と大』とは?

徳島大学が創立70周年記念事業の一環で創刊した、産業院が運営する月刊情報誌。地域経済と大学をつなぐ目的で、大学のホットな研究室や研究内容、産学連携事例の紹介や、地元企業経営者のインタビュー、地元の経済ニュースや大学の取り組みを紹介した。発行部数は1万部。書店、アマゾンでも販売を行った。

https://www.tokushima-u.ac.jp/anniversary_70th/memorial_ceremony/books.html

 

 

—徳島大学の情報雑誌『企業と大学』についてお伺いします。大学からこのような有料の情報誌を発刊するのも珍しいと思うのですが、この出版事業を始めた目的はなんなのでしょうか?一方で広告収入を見込んだ収益事業という側面もあるのですか?

 

坂田 「『企業と大学』は、大学創立70周年記念の事業のひとつとして創刊しました。先ほどの産業院の取り組みでも語られたように、徳島大学は全学的に産学連携に力を入れていて、この雑誌のタイトル『企業と大学』はまさにそのまま。つまり目的は企業と大学を繋ぐためのメディア活動です。企業にとって、大学に魅力を感じる点は2つあります。先ほどから話に出ているように、一つは当然研究、もう一つは大学生の人材採用なんですね。研究については、毎月産業院の取り組みとして、徳島大学の教員の研究を企業向けに情報発信することで、企業との共同研究の可能性を開くことが狙いです。研究開発を行う企業でも、大企業は組織内に研究室を持っているケースが多いですが、中小企業では研究室を置く費用もありません。大学は中小企業に積極的に大学の研究室を利用してほしいのですが、企業側は「利用ができるといっても、どう利用していいのかわからない」というのが現状です。そこで、「研究室ナビ」というセクションを毎号組んで、大学のどの先生がどんな研究をされているかを解説することで、企業の方々に具体的に共同研究のイメージが湧くようにしました。人材採用については毎号の特集で、地元企業の紹介を通じて大学生読者に向けたブランディングをサポートしました。」

 

—毎号、どのように紙面の企画をしているのでしょうか?毎月発行されていますが、一大学の産学連携テーマでそれだけネタが集まるものでしょうか?

 

坂田 「今は3人の編集者ですべての編集を内省しています。大学の先生方にも寄稿していただくことが多いです。この雑誌を始めてみて、大学って本当にネタの宝庫だとわかりました。取り上げたいネタがいっぱいあるんですよ。研究もそうですけれど、徳島大学の場合は大学としても本当にいろいろな取り組みを次々としていますから。それだけでも毎号カバーするニュースが尽きないので、今は「地域の経済トピックス」というページと共に、「徳島大学トピックス」というページも巻頭のほうに載せているくらいです。大学で起きたことをただ出来事として伝えるだけではなく、読み手にとって意味のある情報としてきちんと伝えることを心がけています。」

 

—雑誌はどのように配布しているのですか?

 

坂田 「現在は毎月1万部印刷して、そのうち大学関係者と学生に6,500部、残りは企業や経済団体に配布しています。県内の書店でも普通の雑誌と同じように販売していますし、アマゾンでも紙版とKindle電子書籍版の両方で販売しています。とにかくすべての可能なチャネルで発信しています。」

 

—大学と企業とのつながりを作る、という意味で、雑誌の発刊はどのような役割を果たしているのでしょうか?

 

坂田 「例えば、毎号、地元企業を1社選んで17ページもの特集を組んでいます。取り上げるのは徳島に関係する企業ばかりですので、当然、記事は経済界でも「あの企業のあの社長が雑誌で取り上げられていたぞ」と話題になります。大学が主体となって企業の情報を発信することで経済界も大学に親近感と興味を持ってくれますし、同じ雑誌に掲載されている大学の研究情報も目に触れる機会ができるのです。これまでは、大学は企業から見ればわからないことが多い存在だったと思いますが、企業や地元の方々が興味を持つ形で大学内部の情報を積極的に発信することで、「ああ大学ってこういうことやってるんだ、こんな取り組みがあるんだ」と知ってもらえる機会になります。

 

—紙面に企業の広告がかなり入っていますが、広告はどのようにして契約しているのですか。また、今後は広告収入で黒字化することを目指していらっしゃるのでしょうか?

 

坂田 「企業広告は職員のみなさんが企業に提案に行ってくださったりして、契約していただいています。すごいんですよ、徳島大学の職員のみなさんの営業力が!大手企業の場合は学長も直々に提案に行ってくださいます。その影響力が一番すごいかもしれません。収益モデルとしては、まずは広告料と運営費がとんとんになるぐらいを目指していて、今すでにそのレベルには達したと思います。

 

—OTSUCLEも、『企業と大学』も、産業院も、新規事業で得た学びを自大学だけの利益にとどめず他の大学にも還元しようとする姿勢が、国立大学ならではという感じがします。

 

斉藤 「あえて徳島独自の事業としないこと、それが我々の共通する考え方です。徳島大学が始めたプラットフォームや媒体をオープンソース化することで、全国のみなさんにどんどん使っていただきたいのです。周囲からすれば徳島大学が始めたから徳島大学のものだと思われるかもしれませんが、そういうものでは全然なくて、いろいろな大学から一緒にやりたいと声をあげて欲しいです。」

 

—それはやはり、徳島大学として「国立大学はやろうと思えばここまで自由にできる」という限界に挑戦した事例を全国の他の国立大学に示したい意図もあるのでしょうか?

 

斉藤 「それもあります。多くの地域大学が同じように自律的経営に向けた難しい課題に直面している中で、徳島大学は誰もが取り組める、わかりやすい成功例を作りたいという想いがあります。同時にこの活動を通じて地域や企業と密着していくことができればいいと思っています。」

 

—徳島大学で起きているこの動きは、どうしたら全国的に裾野を広げる活動として展開できるのでしょうか?

 

馬場 「まずは徳島大学で成功事例を見せることが大切だと思っています。OTSUCLEでは、実際に成功事例を積み重ねることで、「クラウドファンディングの活用を考えています」というお問い合わせを他大学からいただくことが徐々に増えてきました。そのような成功の積み重ねを作ることが最初のステップだと思っています。」

 

坂田千代子氏

 

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