持続的発展を目指して、産業の種を撒いていく。鹿児島大学産学・地域共創センターが取り組む地方創生のありかた(前編)

持続的発展を目指して、産業の種を撒いていく。鹿児島大学産学・地域共創センターが取り組む地方創生のありかた(前編)

鹿児島大学は、島嶼を抱える鹿児島を中心とする南九州地域の産業振興、医療・福祉の充実、環境の保全、教育・文化の向上など、地域社会の発展と活性化に貢献することを目指して、2018年 4月に「南九州・南西諸島域共創機構」と「産学・地域共創センター」を併せて設置した。

同センターが推進する「南九州・南西諸島域の地域課題に応える研究成果の展開とそれを活用した社会実装による地方創生推進事業」は、文部科学省が平成29年度に国立大学法人運営費交付金に加えて新たに創設した「国立大学法人機能強化促進費」の採択を受けたものである。

鹿児島大学の産学連携の取り組みの軸となっているのは、地元の産業を育て、発展させ、地域に還元すること。諸島部を回って課題を掬い上げるスタッフと大学研究者が協力し、課題に対してひとつひとつソリューションを提供していく。民間企業とは異なるアプローチで地方創生に取り組む、鹿児島大学産学・地域共創センターの中武貞文氏にお話を伺った。
(インタビュアー 湯浅誠(Makoto Yuasa)カクタス・コミュニケーションズ株式会社・日本法人代表)

地域産業の種を撒いていくのが、地方大学の役割

湯浅:今日お伺いしたいのは、鹿児島大学のユニークな産学連携の取り組みについて詳しくお話をお伺いするためです。鹿児島大学は、産学連携の枠組みの中で、特に地域振興に特化した活動をされていますね。

中武:当学は2018年4月に従来の組織を再編し、南九州・南西諸島域共創機構産学・地域共創センターを立ち上げました。既にURAセンターも整備がされており、基本的には、直接的な研究者支援(URAセンター)と、産業化や事業化に向けての様々な支援活動(産学・地域共創センター)を産学連携の枠組みの中で行っていくスタンスです。

我々が挑戦しているのは、「産業が分厚くない地域に産業の種を撒いていく」ことです。多少大学や研究者の持ち出しがあったとしても、社会の課題を解決する、ソーシャルインパクトになるような事業に力を入れて、将来芽が出そうなものに対して、地域を支える大学としてコミットしていることが鹿児島大学のユニークな点だと思います。

たとえば、我々は、産学連携のKPI設定も産業収入でなくプロジェクトの件数に置いています。地元や地元企業と大学との接点の数を、鹿児島、宮崎、沖縄、この地域で増やしていきたいのです。大学の持ち出しばかりで収入につながらないという問題に対しては、たとえば大学が関わったプロジェクトから商品が売れたり、技術が創出されてライセンスが発生するようなときに、通常よりもちょっと高めのライセンスを取っていくなどの方法で解決できると思います。要は長いスパンで、ゆっくり地元から回収するような仕組みを作りたいのです。

大学として効率的に企業からの外部資金収入を得る方法として、関東や関西などの都市部の大企業と連携するケースが易しいいんです。確かに収入が多い方が大学としては文科省からは評価されやすいかもしれないですが、地元で研究成果を展開する努力をせずに、外部資金が入りやすい形だけに固執するのは、地方にある大学としてどうなのだろうと考えることがあります。

当然、東京や大阪でも営業活動をしながら産学連携を展開して、都市型モードの産学連携や大きな仕組みを作ることは必要です。ただ、全部の大学がそれだけにフォーカスしてしまうと、地方社会で地元の産業が育ちません。なので、地元の産業を育てる活動をしようというのが、我々の新しい組織の中で軸になっています。

湯浅:なるほど。それで組織名を「産学・地域共創センター」としたんですね。

中武:はい。さらに社会貢献、地域貢献、イノベーションの創出の取組をまとめた機構名を、「南九州・南西諸島域共創機構」としました。特にこの機構では、大学がイニシアティブをとって諸島域の産業開発をやればやるほど大学側の持ち出しが多くなってしまうという課題があります。なので、息切れがする間に早く商品を打ち出して、大学に還元される仕組みにしないといけないという危機感はありますね。


歴史ある離島の持続的発展を目指して

湯浅:産業がない地域に産業の種を撒くのはすごく長いスパンでの取り組みですよね。新しい産業の種がどこかの企業で事業化して、それがその地域の目玉産業になるには10年、20年かかってもおかしくないと思うのですが。

中武:それくらいはかかりますね。ただ、たとえば人材が不足している、へき地って呼ばれるような地域や孤立した島しょ部でも、水産業や農産業を回して生活が成り立つような仕組みを作ることができれば、それは経済的な価値以上のものだと考えているんです。我々が一番危惧してるのが、その土地や都市、島に住む人間がいなくなって、地域が立ちいかなくなってしまうことです。

グローバルな経済のつながりのなかで強く生き延びていこう、っていう考え方ではなくて、歴史的に今までずっと長く人が住んで、営んできた地域が持続的に残っていくということを目指したいです。

たとえば島しょ部でサトウキビ産業の収率を上げるためにこんな機具を導入してみましょうとか、うまくいってない水産養殖業を高度化して、安定的に生産量が確保できるようにしましょうとか。今まで使われてなかった食品や食材、植物の機能性を評価して、機能性があることを見つけたらそれを商品に展開していきましょうっていう風に、アカデミックベースでイノベーションを創りあげて、課題をひとつずつ解決していこうというスタンスでやっています。

湯浅:なるほど。これは鹿児島大学さん特有の考え方なのでしょうか?

中武:特有の考え方です。奄美とか与論とか徳之島とか、離島までが守備範囲に入っているので必然的にそういう発想になりました。世界に出せるような製品を作るために工場を誘致したり、研究所を作るのも大事なんですが、今の産業を少しでも高めていくっていうこともやっぱり必要になりますよね。パワフルなベンチャーが出てきて色々挑戦するというのもひとつの方法ですが、それは確率論であって、気がついたときに地元の既存の産業も衰退してしまうというのが一番懸念事項です。まずはある一定の可能性を持ったやり方、堅実な安全策で地域を守るやり方をしています。

 

 
新しい技術を活用した地域戦略と事例づくり

湯浅:今、お話を伺っていて2つ疑問が出てきました。1つは、守備範囲がとても広い中で、センター内の職員の方々がどういった役割分担をして、プロジェクトを展開しているのか。

もう1つは大学の持ち出しが多いという話だったんですけど、まずは最初の持ち出しをどうやってそこまで出せるのか、地域大学の限りある財源の中で、なぜここに予算を投資するのかという議論が大学内でも必ず出たかと思いますが、そこはどうやって捻出されてるのか気になりました。

中武:まず最初の質問ですが、この事業を始めるにあたって、教員が3名増員されました。内2名は「社会実装チーム」として島を回ってシーズを開拓してます。島全部を守備範囲として頑張ります、と理念としては掲げてるんですが、すべての島を初めからやるのは流石に大変なので、徳之島と甑島の2つに絞って活動を始めました。

現地の自治体の方に話を聞いていったところ、徳之島の場合はサトウキビ産業をなんとかしたいという話から、そこにIoTを乗っけてみようという風に話が進みました。衛星画像と、一部ドローンと、現地のフィールドサーバーを使うと、現地の様々な自然環境情報を取得することができます。単純に聞こえますけど、島では伝統的に地域の人たちが親戚同士の協力関係で「今年は〜さんのところから刈り取りを始めよう」みたいなやり方で刈り取り時期を決めていて、発育のいいところから収穫しているわけではないということがわかったのです。IoTを使えば、島の中でもサトウキビの生育が良い・悪いの濃淡があるので、それを衛星画像で見て刈り取りの流れを作れ、収穫量を上げることができます。

決して最先端のテクノロジーではないんですが、既存の技術であっても最終的に社会の隅々まで埋め込まれていないのであれば、そういった新しい技術を大学が地域に実装する価値があるんです。そうして地域の産業が改善されたら、その地域が、正方向に一気に傾きます。

2点目の予算に関しては、プロジェクトが動き出して大きなビジネススキームを描くときに、衛星画像は高いけど、誰が負担する?じゃあここは役場に担ってもらいましょうとか、ここは企業に担っていただきましょうと、そのビジネスフローまで全部整理をして、うまくいくようなシナリオを想定して、役割分担をしています。資源については、特別な予算はつけていません。平成33年(令和3年)まで文科省から補助をいただくので、まずはその中でやれるだけやっていきます。何らかのビジネスモデルが立ち上がって、自立的な流れができた時点で大学は支援を引いて、別のところに充てていく、そんなイメージですね。

湯浅:今回採択された「文部科学省国立大学法人機能強化促進費事業」について、鹿児島大学が評価されたポイントはなんだと思いますか?

中武:島だと思います。地域性をかなり絞り込んだという点ですね。なので今後は事例をたくさん作って、色々と取り組んでいきます。食もあるし、農業もあるし、水産もあるし。あとは自立的なエネルギーです。たとえば島はガソリン代が高いですよね。そういうところを、島の中で完結できるようなエネルギーシステムの構築も視野にはあります。

湯浅:風車とか?

中武:はい。あと潮流発電とか、まだ完全には立ち上がってないんですけれども、植物を利用したバイオマス利用の計画もあります。

後編に続く)

中武 貞文(NAKATAKE Sadafumi)
鹿児島大学 産学・地域共創センター 連携推進部門  部門長/准教授
大阪大学理学部化学科卒、大阪大学理学研究院無機及び物理化学専攻博士課程前期修了、鹿児島大学大学院人文社会科学研究科地域政策科学専攻博士課程後期単位取得退学(財)日本気象協会福岡本部勤務、九州大学知的財産本部学術研究員・同大産学連携センターリエゾン部門助手等を経て、2008年より鹿児島大学産学・地域共創センターに勤務。企業と大学研究者のコーディネートに加え、大学の知をさらに社会に展開する活動や仕組み作りを行う。

Related post

プラスチックの人工酵素!?プラスチックは万能の酵素になり得るのか?

プラスチックの人工酵素!?プラスチックは万能の酵素になり得るのか?

私たちの体の中には、酵素と呼ばれるたんぱく質がたくさん存在しています。もし、人工的に好きな化学反応を早めることができる酵素を作れたらどうでしょうか。医療や工業が大きく発展するかもしれません。今回は京都大学 白眉センター 特定助教の黒田悠介先生にお話を伺っていきます。
研究はゲーム レーザー核融合の研究者

研究はゲーム レーザー核融合の研究者

藤岡先生がどうして核融合反応の研究をすることになったのか?どういった思いで日々研究されているかのか?などの研究への愛を伺っていきます。始まりは、小学生の時に経験した衝撃の出来事、そして高校生の時に見たNHKの番組でした。いったい何があったのか?どんな番組を見たのか?ぜひ、動画でご確認ください!
太陽で起きている反応を発電に利用する!? レーザー核融合反応の研究

太陽で起きている反応を発電に利用する!? レーザー核融合反応の研究

太陽がどうして輝いているのか知っていますか?何かが太陽の中で燃えている?いえ、そうではありません。太陽の中では水素と水素が合体し、ヘリウムが生れる反応が起きており、この反応のおかげで太陽は輝いていて「核融合反応」と呼ばれています。核融合反応の実用化に向け、日々、研究されている大阪大学 レーザー科学研究所 藤岡慎介教授にお話を伺っていきます。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *