キーマンに聞く!女性研究者子育て支援の本質

キーマンに聞く!女性研究者子育て支援の本質

取材を始めてすぐに気づいたこと。「名古屋大学の子育て教員支援を盛り上げている現場のキーマンは、この人だ」。

本業は生物学研究者である佐々木成江さんは、お茶の水女子大学での教員経験と名古屋大学での男女共同参画室での経験を生かし、当事者として、アドバイザーとして、女性研究者を増やすための試みを現場で支え、動かしている。くるくる動く表情と、パワフルな笑顔に目が離せない。


学内保育園と学童保育の立ち上げ

もともとお茶の水女子大学で教員をしていたんです。当時のボスが「なりちゃん、子供そろそろ生みたいんじゃない?大学に保育園がないのはおかしいから一緒につくりましょう!」って保育園立ち上げのチームに入れてくださった。子供は諦めていたんですけれど、大先輩の先生たちがどんどん子育て支援の改革を牽引するのを間近で見て、ひょっとしたら自分も産めるかもって思えたんですね。

保育園を作った1年後に出産して、自分もその保育園を使うことができました。子供が3歳の時に名古屋大学に赴任になりました。お友達から「本当に大変なのは子供が小学校に上がってから。学童保育が必要だよ」って聞きまして。当時名古屋大学には束村先生のご尽力で保育園はありましたが、学童保育はまだなかった。だったら作ればいいじゃないか!って。お茶の水のときの経験もあったので、男女共同参画室に入ったときにすぐ「学童保育を作ろう!」って提案したんです。

学童保育を作るにあたって、まずは場所が必要。ちょうど学内保育園を新しく建てる計画があったので、「2階建てにして中に学童を入れちゃえばできる!」ってことになって、保育園の2階に学童保育を作りました。「小1の壁」って知ってますか?子供が保育園の時は延長保育があるけど、小学校に上がると学童保育は夜間に子供を預かってくれないために、母親が仕事を続けられなくなる問題です。名古屋大学はその予防のためあらゆる工夫をしました。最長21時まで延長保育あり、電話1本でお願いできる。そして夜ごはんも提供してくれたり、お風呂まで入れてくれる。自分がほしいものを全部入れましたよ!

女性PIプログラムの立ち上げから見えてきたもの

名古屋大学は教授職などの上層部に女性を増やすため、女性PI採用プロジェクトを立ち上げました。その第1号として採用した上川内さんが、子連れ単身赴任してきたんです。

上川内さんがPIに決まった時に思ったんです。女性教員を増やすために大切なのはいい教員を探す目ききであり、いい人を「発掘したい」という思いなんだって。これまでの人事にはそこが欠けていた。自分たちが持っているネットワークの中でいい教員を探そうとすると、なかなか女性が引っかかってこないんですよね。

助教ポストだったら、適当に採用しておけばいいよってなるところが、「女性だけのための教授ポストです」となったとたん、それは学科全体の将来を決めていく重要な決断になりますから、探す方も、本当に真剣になっていい人を探すんです。一生懸命探したら、全国には優秀な女性研究者がたくさんいることがわかった。あの経験から、名古屋大学には「人を発掘する」という意識がついたと思います。

上川内さんは36歳で教授になり、『AERA』にも「日本を支える100人」の特集で取り上げられたり、JSTの広報誌のカバーになったりと話題になりました。経営的にも、女性の採用人数が多いと大学から学科に、3年間の特任教員の人件費が出るなどのご褒美がある。今はどんどん人員削減されている時代だから、そういうインセンティブは学科を動かす上でとても重要なんです。上川内先生の人事がきっかけで、学内が「いい女性教員が入るといいことがある」という雰囲気に変わった。それから、いつの間にか女性がたくさん集まってくるようになりました。

名古屋大学は大型研究費の申請書に「女性のトップリーダーを育てる」という文言を入れています。国にもその努力が評価され、研究費も通りやすいので、これまで男女共同参画に興味がなかった現場の先生たちも自分たちの問題として関わってくれるようになってきました。これは大学の経営戦略であると同時に、現場を変えるための戦略。女性の登用を入れることで、大学全体にとっても現場にとっても研究のプラスになるという感覚は、名古屋大学特有です。

男女共同参画と女性研究者の子育て支援の未来

男女共同参画の活動は、日本ではまだ始まったばかり。すごく息が長い仕事になると思っています。これだけ力を入れている名古屋大学ですら、女性教員の割合は1年で1パーセント増えるかどうか。現実はそんなに簡単ではありません。難しい理由は、女性の活躍の問題が大学だけではなく、社会全体の問題でもあるからなのです。

私は、女性研究者のキャリアにおけるいわゆる「ガラスの天井」問題の本質は、ジェンダーの問題ではなくマイノリティの問題だと捉えているんです。男女の問題として捉えると、生物学的な性による違いといった別のニュアンスが絡んでしまい、女性研究者をいかに増やすか、重要なポジションに優秀な女性研究者を配置するためにはどんな努力をすればいいのかという本来の議論を土俵になかなか乗せることができない。

そして、女性たちがどんなに「何かがおかしい」と思って声をあげても、少数派の個人の問題で片付けられてしまう。だからこの解決策は、制度改革よりも何よりも、女性研究者の数を圧倒的に増やすこと。女性研究者をマイノリティではなくマジョリティにすることしかないんです。ある経済学者によると、3割がマイノリティを脱する境目なんだそうです。女性教員の割合を3割にすること、これがすべてのスタートラインです。

全体と比較したら少ないけれど、1つの力として組織の中で機能するには十分になる。そのスタートラインに立って、ようやく女性が社会で働く上での本当の課題が見えてくると思うんです。単身赴任者子育てネットワークが解決しようとしている問題も、これから増えてくる問題の一部。女性教員が研究キャリアを優先すると、絶対に単身赴任が避けられない。これ、以前には予想できなかったことですよね。そうやって問題が見えてきたら、一つ一つ解決していけばいい。ネットワークはその前向きな試みの一つなんだと思います。


雑誌「ScienceTalks」の「研究者のトゥ・ボディ・プロブレムと単身赴任ワンオペ育児」より転載。

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